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2017-04-27

人間の土地

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〈ホンのことばのおすそ分け〉

「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」

(『人間の土地』サン=テグジュペリ 堀口大学 訳 新潮文庫 より)

このセリフ、素敵な恋愛小説の一節のようですが、実はそうではありません。

『星の王子さま』で有名なサン=テグジュペリの『人間の土地』の一節です。

この小説はフランス軍の飛行中隊長として飛行機を操縦していたサン=テグジュペリがサハラ砂漠で遭難した際の体験をもとに描かれた作品です。

砂漠には僚友と二人きり。食糧が尽き、水もなくなり、幻覚が見えはじめた中で、生まれたのがこの言葉でした。

「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」

同じ方向を見るというのは共に生きることを意味していたのですね。

描かれているのは人間の威厳ともいえる冴え冴えした精神と気魄…。
航空ものに良くある浪漫という言葉からはほど遠い内容ですが、この本を開くと『星の王子さま』がより味わい深いものにかわります。

「家でも星でも砂漠でも、その美しいところは目に見えないのさ」
(『星の王子さま』内藤濯 訳 より)

空から“人間の土地”を見下ろしながら、あるいは砂漠を彷徨いながら、サン=テグジュペリは純粋な王子さまと出会い、どんなところにも必ずある“井戸”の存在と人間本然の姿を見いだしたのではないでしょうか

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