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2017-01-09

恋文

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〈ホンの言葉のおすそ分け 〉

“恋の結果は詩になることもありませう、けれど恋は詩の為にするものではなくて人の存在に関わるものであります

(内田百間 『恋文』より)

ひとりだけのために言葉を紡ぐ。
その人だけに読まれることを前提に…。
それが恋文。

小説ともSNSとも全然違う。
言葉は相手だけのもの、その人だけに届けるもの…。

だから、
臆面もなく言葉を綴る、綴る、綴る…。

もしも、
自分の恋文が本になり、人に読まれていると知ったら、内田百間はどんな言葉を発するでしょう。

本書は偏屈で頑固なイメージがつきまとう文豪・内田百間が青年時代に綴った50通の恋文集。

この恋文は、のちに妻となった清さんによって公開されました。
百閒は清さんと結婚後、別の女性と暮らすようになりましたがそれにもかかわらず、清さんはこの手紙を大切に保管されていたといいます。

“恋しき清さん、僕ハ須磨の宿屋の二階で布団の中から手を出して此手紙を書く”

学生時代の百閒青年から浴びるように届けられた情熱的な言葉は、清さんの中でかけがえのない大切なものとして心に積み重なっていったことでしょう。

ひとりだけにあてた言葉。
自分だけに送られた言葉。

送る側にとっても送られる側にとっても、言葉の記憶は心の拠り所になるに違いありません。

“僕は此数日全く馬鹿になつて居る、たれの心が僕を囚へて居る、その僕にわけを聞かして下さい”

「わけ」
あなたならなんと答えますか…。

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